各国の人々との交流を通じて肌で感じたことは、人間の善性でした。そのことを、このブログを通じてお伝えしたいと願っています。

ある教授のフェアネス

大学に忍び寄るベトナム戦争の影

大学1年の新学期初日。歴史学の教授の言葉を今でも忘れられない。
 
「周囲の学生をよく見ておくように。勉強をしないと来学期は姿を消しているから。一生懸命、勉学に励みなさい」
 
パシフィック大学へ入学した1967年当時、高校を卒業したアメリカ男児には兵役義務が課せられていた。大学や専門学校などに通っている間は免除されるが、成績が悪くて放校されたら兵隊に取られるのだ。アメリカではベトナム反戦運動が盛り上がり、戦争の悲惨さや米兵の士気低下が表面化してもいた。大学を放逐されればどんな目に遭うか、学生たちは戦々恐々としながら必死になって勉強した。

 

1人だけ答案用紙を返されず

秋から始まるアメリカの大学。日本流に言えば2学期は冬だ。パシフィック大学のあるアメリカ北西部のオレゴン州では1月と2月に雪が積もり、その寒さは日本の冬を久しぶりに思い出させてくれた。前述した歴史学の白人教授は、2学期の中間試験の答案用紙を学生に渡す際、私には渡さずに「後で会いたい」と言った。教授室へ出向くと……。
「なぜ答案用紙を返さなかったかわかるかい?」
「わからないです」
「キミは一番前の席で私の講義を毎回真面目に受けているね。現に1学期は4択式の試験で良い成績を修めていた。記述式の今回の試験では上手く表現できなかったようだが、正しく理解しているのではないかと私は思う。そこで、キミがどれだけ理解しているかを確認したい。私の質問に口頭で答えて欲しい」
 
1時間の再試験が終わると「思っていた通り、キミは良く理解してくれていた」と教授は良い点数をくれた。1学期初日の授業での発言にも驚かされたが、この教授の姿勢に再び驚かされた。東洋人の私に対し、分け隔てなく温かく接してくれたのだ。感謝の気持ちでいっぱいになった。彼が授業で語った「歴史を知り、過去に犯した過ちは二度と繰り返さない点にこそ、歴史を学ぶ意味がある」という言葉は、今でも心に深く刻まれている。

 

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